私はオータクル王国の令嬢、メロレア・グレースフィールド。
たくさんの令嬢の物語を読んだけれど、私も幾分もれずに同じような立場で、その社会的地位や役割を全うすることを期待されている。
幼いころから、淑女としての教養、舞踏、音楽、語学、そして社交界での振る舞いを学び、それはそれは周りに認められる立派なお嬢様として育ったのかもしれない。
だけどもだけど…私の心は叫んでいる。
「私はオタク活動を思う存分楽しみたいんじゃーーーーーー!!!!!」
……はあっ、はあ…うっかり心の中で叫びすぎて体力を激しく消耗してしまったわ。
そう、何を隠そう私は真のオタク、漫画、アニメ、ラノベ、ゲーム、二次元!!触れるだけで胸がキュンキュン締め付けられる大好き大好き大好き人間なの!!
いえ、ちょっと待って。もしかしたら、私が真のオタクなんて言ったらおこがましいかもしれませんわ。だって、オタク文化発祥の国、ニポマール王国こそ、尊敬すべき真のオタクの紳士淑女の皆様がいらっしゃるもの!調子に乗ってすみませんでしたーーー!!
そう、私がオタク文化の入り口に立ったのは今から3年ほど前のこと。
私のお父様は見分を広げるようにと、いつも書庫に世界中の文学作品を置いてくださっていたの。だから、小さい頃から色々な本を読んだわ。知らない世界を知るって、どうしてあんなにワクワクするのかしらね。どれも素晴らしい純文学作品だったわ。だけど、そんなある日、古書の匂いと混じり合った、インクの新しい香りが、書庫に並んだばかりの本の存在を私に教えてくれたの。その中の一冊にいつもとは毛色の違う作品が並んでいたのよ。それが、所謂ラノベと言われるジャンルの、異世界転生ものだったの!!
可愛いキャラクターが描かれた表紙、そしてページをめくるたびに、まるで風が吹き抜けるような、今まで出会ったことのない世界観に、私の心はグッと引き込まれてしまったの。あまりの面白さに夢中になってその一冊を何回も読んでしまったわ。続きが読みたい!他にはどんな作品があるのか、興味は尽きることなく私の脳内に溢れてくる。だけど、私が自由に本を入手することもできない、次にまた新刊が書庫に加えられるタイミングを待つほかなかった。
調べたところ、このラノベというジャンルの本はオータクル王国からかなり遠く東にあるニポマール王国というところから仕入れたらしい。ニポマール…私も行ってみたいいいいいいい!!!!
ふぅ…気を取り直して、そう、私はそこから二次元やゲームなどの面白くて可愛くて楽しいものがいっぱいあるということを知ってしまったの。
当時幸運にも、女学院に通っていたこともあって、友人との連絡のやり取りにとスマホを持たせてもらえたの。だから、私は夢中になってオタチューブを漁っては、スマホの画面から流れてくる情報に、もう口角が下がり続けてよだれが止められなかったわ。それはそれは至福の時間だった…
だけど!!私は周りから優雅で上品な高貴なお嬢様と見られている。
そして、今は作家として愛と救済という高貴なテーマを扱った作品を書いている。
そんな私がオタクだなんてバレたら…考えただけでも恐ろしい!
親の期待、周りからの私への評価。それは、私がここに生まれ育ったからこそあるもので、私自身の在り方とは何も関係ないってことは頭ではわかっている。けれど、環境という宿命が私の心を縛っていて、なかなかそこから抜け出せない自分に嫌気がさすこともある。だけど、そんな状況でも私は大好きなものを取り上げられるのは嫌!!だから、絶対にオタクであることはバレてはいけない。
隠密にオタ活を繰り広げオタク文化からしか摂取できない栄養を摂り続けるんだからああああ!!

