私の壮大な物語の執筆を隣で静かに見守ってくれる執事のノア。
今日もまたそんな穏やかな時間が流れている。執筆も一幕の大詰めを迎えている。
最後のシーンを迎える前に、私はペンを置き、一度大きく伸びをした。
「いかがされましたか、お嬢様。」ノアがすぐに私に気付いて声をかける。
「シーンが一区切りして、次のシーンを書く前に少し休憩したいと思って。」
「承知いたしました。でしたら、庭園の散歩などいかがでしょう。今の時期ですと、百日紅やひまわりもまだ咲いていますよ。」
ノアの提案に私は心が躍る。
「素敵!早速行きましょう!」
【サルスベリの並木道】
夏の終わりの強い日差しが、木々の葉をきらきらと輝かせていますね。並木道に立つと、サルスベリの薄紅色の花が、まるで綿菓子のようにふんわりと連なり、空の色を少しだけ淡く染めているように見えます。風が吹くたびに、花びらがひらひらと舞い落ち、地面をピンク色に彩っていますね。
わたくしの隣を歩くお嬢様の、やわらかな微笑みを拝見していると、この穏やかな時間が、永遠に続けば良いのにと願ってしまいます。
ノアは詩人だ。こんなことを散歩しながらなめらかに歌を歌うように伝えてくれる。
「百日紅の花の色が、空の色を淡く染めているように見える」なんて表現、どこで覚えてきたのかしら。物語を紡ぐ表現者としては、こんな表現ができるなんて羨ましくもあり悔しくもある。
でも、そんなノアが近くにいてくれるからこそ、私は安心して物語を紡ぐことができる。
「いい気分転換になったわ!ありがとう、ノア。」
「お嬢様の良い気分転換になったのなら、これほど嬉しいことはありません。では、お部屋に戻り、お茶の準備をいたしますね。」
私はにっこりと微笑み、ティータイムもまた楽しみになるのだった。

