第一話:始まりの対話
それは、冬の気配が漂う、少し肌寒い日のことでした。
今日は新しい執事がやってくるとお父様に告げられて、内心はドキドキしていました。
だって、お屋敷にいる人たちはいつも忙しくて、お仕事だけは懸命にしてくれるけれど、それ以外のことには関心がない。私が読んだ本の内容をお話ししても、話半分にしか聞いてくれず、私に向き合ってくれる大人はいなかった。
だから、私は大人に期待するのをやめていたのです。今日来る新しい執事もきっとそうだと思っていました。
広間の窓辺で一人、本を読んでいると、新しい執事が私のもとにやってきました。
「お初にお目にかかります、お嬢様。わたくしはノアと申します。」
私はちらりと見て、小さく「よろしく。」とだけ、伝えました。
きりっとした目元、スッとした鼻筋、なんとなく冷徹そうな雰囲気を感じて、この人もきっとみんなと同じだと私は思いました。
だけど、ただそばにいるだけなのに、私がノアのほうに目を向けるとにこりと微笑み返してくれる。
そんな日々が何日か過ぎたあとに、私は思いっ切ってノアにこう尋ねたの。
「ノアは、どうしてこの屋敷に来たの?」
私は、もしかしたらという淡い期待と、でもやっぱり違うかもしれないという不安とで、とても緊張していました。もしかしたら、少し震えていたかもしれません。
そんな私を見て、ノアはこう告げました。
「私は、お嬢様にお仕えするために、ここへまいりました」
私はとても驚きました。そんな風に思ってくれる大人がいるなんて、それはあまりにも奇跡に近いような感覚を覚えたからです。私の淡い期待に応えてくれたノア。固まっていた心がふわりとほどけるような、温かい感情が胸に流れていくのを感じました。
それからというもの、私はノアを本当の兄のように慕い懐くまでにそう時間はかかりませんでした。
ノアを呼び、膝の上に座って読んだ物語をノアに聞いてもらうのが毎日の日課になりました。
ノアも物語が好きみたいで、私の話に一緒に一喜一憂してくれました。私が楽しいと感じたことを一緒に共有できる人がいる楽しさ。一人で物語に没頭していた毎日が、ノアがいることによってより鮮やかに彩られ、本当に楽しくなりました。
私は、私にとって人生で大切なことをノアから学びました。
それが、今の執筆作業に繋がるなんて、この時は私もノアも思ってはなかったでしょうね。


